地方自治体における最近の計量行政

(地方分権実施後の計量行政及び今後の方向)

1.地方分権がもたらしたもの

(1)国と地方の役割分担の明確化

地方分権において行政機関の事務は、国と地方の役割分担を明確にした。 地方計量行政は、従来からの国の包括的な指揮監督の下で行う機関委任事務から地方公共団体の自立的な責任のもとで行う「自治事務」と「法定受託事務」に区分された。

(2)地方計量行政の事業委任の動向の加速

地方の事情に適した民間活力の導入の機運が加速されている。

例:指定定期検査機関、適正計量管理へ計量士の参加(代検査、ISO、燃料油関係)

(3)地方計量行政の新たな役割分担の見直し

1行政組織の改編の動き
2計量技術の継承策(技術職員の減少、短期間従事、研修方法の再検討)
3任意事業の導入(受託検査等の検討)
  計量標準供給事業等への参入、検討(JCSSの認定取得)

2.地方計量行政の現状と課題

(1) 都道府県の計量行政の分権化への的確な対応
<中核市、特例市、特定市の指定による計量事務の分散化>
(県の事務の空洞化と効率的な定期検査事務の執行をどうするか?)

1特定市等の多い県(矢印は平成15年4月から)
大阪府(11市→12市)、北海道(8市)、愛知県(8市)
兵庫県(6市→7市)、神奈川県(7市→9市)

2特定市等のない県(9都県)
岐阜県、滋賀県、東京都、島根県、鳥取県、香川県、徳島県、佐賀県 沖縄県

3政令指定都市の指定(平成15年4月指定)
さいたま市

(2)自主、独立した事業の展開
<各県の具体的な動き>(例)

1指定定期検査機関等の指定の状況
現在、指定状況は、9都県8市(証明検査8都県)
○積極推進型・・・・平成15年4月目途
          平成16年4月目途
○原則推進型・・・・計画検討中
○消極推進型・・・・検討の方向付け
○現状維持型・・・・導入の予定なし
県のおかれている状況による揺れが大きい  


(3)必置規制の廃止による計量行政への影響

1検定、検査等を担当する職員の資格要件の廃止
(分権前、計量法第166条第3項、施行令第32条)

○検定、装置検査、定期検査、指定製造事業者の検査、計量証明検査の事務

・結果として計量行政の質の低下をまねいていないか?

2国際化に対応した技術基準の実践上の課題
○技術職員の減少
○ 短期従事による計量研修センター派遣の困難化
○計量技術力の低下
メリット
「自主的な行政の執行」
(危惧)デメリット
「全国的統一がとれた計量行政の執行の妨げ」
「計量行政の質の低下」

3各都道府県とも技術継承が課題
今後5年間でベテランの技術職員が 全国で大幅に退職→新規採用することは大変困難な課題
今後5年間でベテランの技術職員が 全国で大幅に退職 新規採用することは大変困難な課題


○都道府県計量行政担当職員の推移

平成10年度

平成11年度

平成12年度

平成13年度

平成14年度

800名

775名

750名

740名

725名

1.00

0.969

0.938

0.925

0.906

<具体的な減員の理由・・・・事業量の変動要素>
○指定定期検査機関の活用
宮城県(H11.4)山形県(H12.4)広島県(H13.4)静岡県(H11.4)
東京都(H14.4) 岩手県、滋賀県
○特定市でなかった市が新たに中核市、特例市へなったため業務移管
福山市、奈良市、所沢市、厚木市、岸和田市、加古川市
○業務量減少による定数減
東京都
○県の組織変更による減
現在、本庁組織内の課等に位置づけられた計量行政担当8県

○検定・検査関係
 

平成11年度

平成13年度

増減(%)

備考

1.計量関係手数料(県)

145,629万円

141,490万円

▲2.84

*1

2.計量関係手数料(市)

11,352万円

10,319万円

▲9.10

*2

3.量目の立入検査(県)

4.量目の立入検査(市)

5,421 戸

6,530 戸

5,587 戸

6,157 戸

 

変動大きい *3

*1:検定、装置検査、基準器検査及び証明検査分の検査手数料に限定
*2:定期検査及び適正計量管理事業所の指定検査手数料(127条第3項)
*3:11年度は、85市、13年度は98市



3.都の対応

(1)事業根拠規程類の明確化への対応


1「行政手続き法」関係の整備
2「計量法関係手数料条例」の制定
3「要領・要綱」の整備
4「検定・検査マニュアル」の整備
5「ガイドライン」の活用

(2)指定定期検査機関等の指定と活用

1平成14年4月活用開始

対象は、島しょを除く都内全域の「2tonを超えるはかり」と対象事業所で使用されるはかり及び分銅・おもり

2毎月定期的な現地指導と関係者会議による運用状況の確認

(3)新規事業として「JCSS校正事業」(質量区分)の開始

平成14年8月認定事業者資格取得(No.0114)

平成14年11月事業開始

認定範囲・・・・・・1mgから1,000kgまでの分銅

精度等級・・・・・・F2クラス、M1,M2クラス

(4) 計量行政の的確な推進に向けた所内での対応

○計量関係事業者連絡会等の実施による事業者動向の確認
○効率的な定期検査実施体制の検討と指定定期検査機関等の活用のあり方


4.地方計量行政の今後の方向

(1)国際化に対応した効果・効率的な計量行政の推進
<ハードとソフトの分離>・・・・OIML「計量法」「計量監督の原則」

例:
ハード面 「検定」「検査」の切りはなし・・・・指定製造事業者
                       指定定期検査機関
                        (その他の方法?)

ソフト面 「調整」「計画」「監視」「指導」「立入検査」「苦情処理」
       行政が協力体制を活用して実施

現 行

事前チエック体制

<行政による>
【検定】【検査】

将 来

事後チエック体制

【調整、計画、監視、指導】
(消費者行政とのかかわり)

といわれているが実際に可能なのか?的確に応えられるか?
チエック体制の変更で消費者は被害を受けないか十分な検証が必要!!

(2)行政担当職員の力量確保のための研修制度の再検討

1産総研計量研修センターによる研修

例:計量行政職員及び計量士の養成のあり方の検討

2計量行政機関、計量団体等によるOJT、フォローアップ研修

これまで各団体が独自の方法で進めていた研修、講習会を共同で進める。
(キーワード)(Collaboration)

3計量技術力の継承策の実践(JCSSや計量受託検査条例によるもの)


(3)検定所職員の減員や力量の変化にどう対応すべきかの検討が必要

例:○従来の立入検査に付加する方法で対応できないか
<これまでは、検定・検査を通じた経験からノウ・ハウを保有していた>

・消費者による監視活動の強化
・行政の技術力が低下した中で、行政に代われる団体等の専門技術集団の協力依頼
  【現在、受け皿があるか。】・・・・・公平性、公正性、透明性の担保

再点検が必要


5.まとめ(地方計量行政を後退させないために)

・計量行政機関と計量団体等との連携による「適正な計量の実施の確保」

・計量士の役割の増加

<参考>

1.地方分権に関する地方自治法の条文
(1)「自治事務」・・・・地方自治法第2条第8項 地方公共団体が処理する事務のうち「法定受託事務」を除く事務
(2)「法定受託事務」・・地方自治法第2条第9項 本来、国が果たすべき役割に係る事務であるが、その適正な処理を特に確 保する必要があるものとして法律又はこれに基づく政令に特に定め、地方 公共団体に委任した事務
(3) 政令指定都市の権能・・・地方自治法第252条の19 (中核市、特例市の事務も重なる)

東京都計量検定所 検査課長
検査課長  村松 徳治 むらまつ とくはる


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